●ジャッキー・コーガン (アンドリュー・ドミニク)

Killing Them Softly/2012/Andrew Dominik      ★★★★★

◆オープニングでカール・ストーンのエレクトロニカ音が使われているのに、ニクいなあと思う。全体として生音の使い方がうまく、サウンド・エディティング/ミクシングのレベルは高い。

◆ブラッド・ピットが演じるジャッキー・コーガンはすべてを知り尽くしている点で最高のワルなのだが、他は、〝最低〟の奴らだ。最低という意味は、モラルがないということ。モラルがないうえに、自分がモラルを欠いていることも知らない。ジャッキーは、そういう〝最低〟の奴らを罰する。そのため、アモラルをただすハイパーモラルが鼻につくが、アモラルを批判するにはこういうスーパーモラルを持ってくるしかない。

◆ブッシュとマッケインとオバマの演説がバーなどのテレビの画面にさりげなく(しかしその意図が見え見えに)映されるのが、いかにもというアメリカ批判(オバマになったって、何も変わらないじゃないかといった)で、それほどのインパクトはない。

◆アメリカが民主主義をタテマエとする共同体などというのは誰も信じないから、それをタテマエとして唱える大統領の演説を皮肉っても意味がなく、かえってジャッキー・コーガンが好きでやっているわけではないらしい殺しの仕事の理由づけみたいになってしまう。

◆〝最低人間〟の一人ラッセルを演じるベン・メンデルソーンは、『アニマル・キングダム』でも〝最低な奴〟を見事に演じていた。

◆賭博場を仕切るレオ・リオッタは、金かせぎにセコイことをするが、こんなに残酷な仕打ちを受けることはないと思わせるほどみっともなく殺されるワルを演じる。

◆アンドリュー・ドミニクは『ジェシー・ジェームズの暗殺』(The Assassination of Jesse James by the Coward Robert Ford/2007)でブラッド・ピットと組んでおり、うまがあうらしい。

◆原作(ジョージ・V・ヒギンズ 『ジャッキー・コーガン』、ハヤカワ文庫NV)は、1974年のボストンから2008年のニューオリンズまでの時代を背景にしている。

◆殺しを頼んでおいて、支払を値切ろうとする代理人(リチャード・ジェンキンス)に、ジャックが啖呵を切る→"America's not a country. It's just a business. Now fucking pay me." (アメリカは国なんかじぇねぇ。ただのビジネスだ。さあ、俺に金払いやがれての。)

◆ジャック以外は、ごまかして利ザヤを稼ごうとするが、高い金を出して東部から呼んだ殺し屋ミッキー(ジェイムズ・ガンドルフィーニ)が、呼んでみるともうドラッグと女でボロボロになっていて、使い物にならない。人を殺して入るはずの高額の金も、あぶく銭は身につかないの理で、ドラッグと女に使い尽くす。

◆アンドリュー・ドミニクの前前作『チョッパー・リード 史上最凶の殺人鬼』(Chopper/2000) は、刑務所のなかが舞台で、その外の映像はすべてエリック・バナが演じる〝殺人鬼〟のホラ話である。それは、刑務所という空間が生み出すパラノイアと浪費の意識以上の場にはなれないことを描く。ある意味、この刑務所の空間性が、その壁を越えて普遍化した世界が、『ジャッキー・コーガン』の世界だといえなくもない。

◆金が至上の価値であるのがアメリカのシステムだとすれば、金による束縛され方の基本形がいくつか例証される。一つは、ごまかしでセコく剰余を生み出そうとするリオッタやメンデルソーンのやり方。もう一つは、入るはたから浪費して金の完全な循環マシーンになる型。ガンドルフィーニが生々しく演じる。この二つに比べると、ジャックのやり方は、契約の金はもらい、その分は働くというリーズナブルなやり方で、現代のアメリカ資本主義のスタイルではない。が、それは、ベンジャミン・フランクリンや福沢諭吉の資本主義で、いまの資本主義がそういう<近代>資本主義にもどることはできない。

◆サウンドトラック
01 Moon Dance (Carl Stone
02 The Man Comes Around (James Wilsey)
03 Life Is Just a Bowl of Cherries (Jack Hylton & His Orchestra)
04 Heroin (The Velvet Underground)
05 Wrap Your Troubles in Dreams (Nico)
06 Love Letters (Kitty Lester)
07 I Think This Town is Nervous (The Wreckery)
08 It's Only a Paper Moon (Cliff "Ukulele Ike" Edwards)
09 Money [That's What I Want] (Barrett Strong)
10 The Feeling In My Nuts (Marc Streitenfeld)

◆視聴→iTunes

リンク・転載・引用・剽窃自由です (コピーライトはもう古い)  
メール: tetsuo@cinemanote.jp    シネマノート