●天使の分け前(ケン・ローチ)

The Angel's Share/2012/Ken Loach       ★★★★★

◆グラスゴウの下町で底辺におしやられている青年ロビー(ポール・ブラニガン)が、傷害事件を起こしたが、裁判で収監をまぬがれ300時間の〝社会奉仕〟の刑を受ける。彼には恋人がいて、子どもがうまれたが、祝ってくれたのは、〝社会奉仕〟プログラムを指導する教師のハリー(ジョン・ヘンショー)だけだった。彼は、もらったというとっておきのモルトを出してきて、ささやかな乾杯をする。ロビーは、実はウィスキーを飲んだことがなく、「コーラーで割っていいかい?」などと言ってしまう。が、これがきっかけとなり、ロビーはウイスキーに興味をもち、図書館から借りた本で調べたりしはじめる。ハリーは、彼の興味を伸ばし、それで仕事が出来るようになればいいと思い、彼を蒸留所見学にさそう。すると、〝社会奉仕〟プログラムの仲間たちも行きたいといい、ドジだったり、万引き癖があったりする3人の仲間がついてくる。

◆この4人が、樽1本100万ドルもの値がつくモルトを盗むことになるのだが、社会的に疎外され、金も職もない追いつめられた底辺の人間が銀行強盗をやるといったときに(描き方のもよるが)味わうことが出来る清々しさがあまりない。映画内のロジックとしては、盗みに成功した彼らのハッピーな姿で終わるのだが、それがこちらにはハッピーな気を起こさせないのである。

◆バカなアルバートが割ってしまうボトルは、IRN BRUというソーダ飲料。が、その750 ml glass bottleを使ったのには魂胆がある。1 litre plastic bottleでもよかったが、ここで割れる必要があったのだ。しかし、ガラス瓶の場合、蓋が一回捨ての栓になっているから、こういう使い方には向かない。このへんの主題優先の映像つくりがケン・ローチの偽リアリズムである。

◆ひっかかるのは、ウィスキーの蒸留所の樽からホースでモルトを盗み出すシーンなど、ローチらしい、観念優先のいいかげんさが出ているからだ。ウイスキーの質が問題なのに、あんなやり方では、せっかく盗んでも、使い物にならない。入れた容器は、スコットランド地方で売っている「アイアン・ブルー」という炭酸清涼飲料だそうだが、ちゃんと洗ったんだろうか? それに、盗み出すのにペットボトルのほうが楽なのに、なんでこれのガラス瓶のを使ったのか? それは、盗んだあと、ドジ男が瓶を急に動かして、もう一人の仲間の瓶にぶち当ててしまい、せっかくの4本を2本にしてしまうというハプニングを演出するためである。ローチはいつもそうだが、まず観念(言いたいこと)があってプロットが生まれる。それが、だんだん無理になってきている。

◆青年がモルトにはまっていくところはいい。スコッチウシスキーの専門家のチャーリー・マクリーンが出てくるワークショップのシーン、あやしい売買をしているらしい男を演じるロジャー・アラムもよかったが。


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