粉川哲夫の「雑日記」

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2023/08/04

やっと始まった トランプJ6「国家転覆」起訴

現地時間8月1日、米司司法省特別検察官のジャック・スミスは、ドナルド・J・トランプへの3度目の訴訟を発表した。→abc/YouTube

この時点で書きたいことは多々あったが、訴訟される当のトランプが「罪状認否」のためにワシントンの法定に出向かなければならないので、そのときに起こるかもしれない出来事に期待し、米東部時間8月4日16時まで待つことにした。

こういうヤジウマを見透かしてトランプは、7月31日に、いまや自前のメディアになったTruth Socialで、起訴を予告した。というより、司法省から彼に告知された通達を公開したのである。自己顕示欲からも、彼への訴訟や中傷をも自分の権力増強の手段に利用するトランプらしいやり方であるが、いまのマスメディアがリークであれ周到な調査であれ、独自の取材をせず、SNSが先んじるというのが、いまのメディア状況をあらわにしている。

「気の狂ったジャック・スミス」が「犯罪一家のバイデン」の命令でトランプの選挙妨害をしているというロジックがくりかえされている。俺を弾圧したいのなら「何で2年半まえにやらなかったのか?」と言うが、これは、今回の訴訟の具体性を無視するトランプ流のテクニックである。2年半まえにはわからなかったことだろうという「常識的」な反論はここでは無意味になる。
と同時に、このくだりは、トランプが2年半まえから機密文書をひとに見せたり、ニセの選挙人を立てたりしていたということを暗黙に認めたことにもなる。裁判は、SNSのヨタ記事のやり取りとはちがうから、裁判が始まれば、こういうことは言ってはいられないだろう。トランプは、依然として、お得意の延期作戦で公判をぐたぐた延ばし、あわよくば自分が大統領に再選され、自分を恩赦してすべての容疑をチャラに出来ると思っているかのようだ。

米東部時間8月4日午前4時

さて、8月4日になり、YouTubeを覗いたら、あちこちのサイトが「LIVE」予告を出していた。テレビ屋も裁判所まえにだいぶ集まっている。反トランプ、賛トランプのプロテスターの姿もある。が、まだ16時(日本時間午前4時)までにはまだ3時間もあるので、ちょっと真夜中徘徊をすることにした。
このごろは、隅田川沿いをよく歩く。低体温のせいか「猛暑」をテリブルとは感じられないわたしでも、水面から吹き寄せる冷気は気持ちがいいが、この日は、台風の影響か、湿気の重い夜気にからみつかれ、さっぱりしなかった。

「トランプ新世」

「人新世」(Anthropocene) にひっかけて、"Trumpocene"(トランプ新世?)という言葉が出てきたが、トランプがやっていることは新しいことではない。嘘でも反復すれば「事実」になるというペテン師の技法を飽きずにくりかえしているだけだが、ペテンと詐欺をトレンディにする時代がこのようなキャクターを一気に押し上げた。「複製可能性」を徹底させるために「オリジナル」を隠すか抹殺しなければならない時代である。「嘘」と「本当」の区別がはっきりしては困る。

詐欺師を英語で「コンアーティスト」(con artist)と言うが、アーティストはもともと「詐欺師」である。詐欺の出来ないアーティストは「巨匠」にはなれない。たわけたことでも繰り返し自己礼賛し、同じものを制作しつづけること。
トランプのやっていることは「巨匠」をめざすアーティストにはなじみの方法であり、その点でははなはだ幼稚である。彼の自己礼賛はお粗末だし、その取り巻きやイデオローグは、ネオナチや国粋主義やKKKやみな古びた反動主義にすぎないからである。
だから、トランプ現象は、「トランプ新世」などは生みはしない。最近のトランプのやることは、単純な反復(訴訟は魔女狩りだ、選挙は盗まれた、陰謀陰謀陰謀・・・)に終始し、自滅への道を突き進んでいる。

ごっこ政治

8月4日の午前4時すぎ、徘徊から帰って、夜食を食べ、ワインとラム酒を飲んでYouTubeを覗いたら、ひとはだいぶ集まっていた。しかし、画面には、「くたばれ裏切者!」というプラカードが見えたりしても、全体の感じは遊び気分に見えた。 ワシントンは、トランプの言う「悪の拠点」であるから、もっと緊張した批判者の姿が見えても不思議ではないが、これが、まさにトランプ現象なのだ。「熱狂」は、逆にトランプ主義者が「左翼」から奪い取った。その点では、トランプの批判者のほうが、一歩進んでいるかもしれない。トランプ主義者は、まさにむかしの「左翼」のように集まり、暴れ、1月6日の事件を(J6)起こした。が、むかしの「左翼」のデモや「決起」と比較すれば、J6は他愛ない。なんて言うと、J6を正当な抗議だと思い込むか利用しようとしている共和党のトランプ派も、これを「国家転覆」の事件とみなす民主党の大多数も、猛反対するだろう。

政治はドラマであり、そのドラマトゥルギーは、多くの場合、定番に終始する。そうでない場合を「革命」というが、それは1日以上は続かない。トランプ政治=劇場の場合、違反・訴訟・罰則の定番的段取りで進んでいる。トランプは大根役者であり、演出家(たち)は時代遅れの概念しか振り回せないから、結局のところ、トランプが刑罰を受けるところで終演になる。

トランプの行く末

気を抜いているあいだにトランプがワシントンのE・バレット・プリティマン裁判所に入場するライブ映像は見ることができなかった。凝視するような映像ではないから、ながら見しかできない。で、たちまち画面は、トランプの一行が車でニュージャージーのニューワーク空港に向かうのを空中から俯瞰した映像になり、やがて、空港で自家用機に乗り込むシーンになった。

が、ここで面白いハプニングがあった。タラップに立ついかめしい軍服(トランプのリクエストか?)の兵士の帽子が地面に落ちているのをトランプが見つけ、拾ってかぶせようとした。が、それがエンジンのか、風でまた吹き飛んでしまったのだ。つまりトランプのお為ごかしの「親切」は見事異化されてしまった。運の悪いヒトである。→動画
これでは、今後、彼は凋落の一途をたどることになりそうだ。

ペンスの役柄

かつて、わたしは、トランプと副大統領のマイク・ペンスとの関係を戯画化して、コピペコントを紹介したことがある。→参照
2016年11月のことだから、もう7年もまえである。それは、トランプがいならぶ記者のまえで大統領令に署名するのをボイコットし、ペンスがやきもきする姿があった。その後の事実を通覧すると、ペンスというひとはずっとそういう矛盾に耐えながらトランプに従っていた。が、さすがの彼も、J6の「反乱ごっこ」には賛同できず、トランプとたもとを分かつ。が、これも彼らしく、きっぱりと縁を切ったわけではない。そのためにJ6では「ペンスを処刑せよ」というプラカードが掲げられ、首を吊る処刑台まで登場した。 ここまでされれば、共和党内にもトランプ批判が出始めた段階で明確なトランプ批判をして当然だが、彼は明言を避けた。しかしながら、8月4日の第3回目の起訴がハッキリすると、彼は、歴史に残る(?)明言を発する。

「憲法よりも自分を優先する者は決して大統領になるべきではない(Anyone who puts themselves before the Constitution should never be president)」。

つまり、ペンスは、右を見、左を見、ここでやっとトランプに見切りをつけ、トランプの対抗馬として2024年の大統領選に臨む決意を固くしたわけである。といっても、共和党の多数派は依然としてトランプに賭けようとしているから、これでペンスの格が上がったことにはならない。むしろ、その小賢しさに敵意を持つ者が増えるかもしれない。

利己主義のブーメラン

トランプの閣僚の多くは、喧嘩か失望か軽蔑かで離れていき、敵にまわった者も多い。トランプ側からすれば「裏切者」だ。司法長官としてトランプの尻拭いを最後までやったウィリアム・バーはそのなかでもその「裏切り」の正当性が明解な人物で、そのトランプ批判は説得力がある。その彼が、依然としてトランプに義理立てしている連中に向かって名言を吐いた。

「トランプにとっては忠誠は一方通行である (Loyalty is a one-way street for him.)」。

トランプは、確信犯だから、あらかじめ各部署に自分の言いなりになる者を配置してきた。ルース・ベイダー・ギンズバーグが死ぬと、空席になった最高裁判事に代わって保守派のエイミー・コニー・バレットを押し込み、人工妊娠中絶を憲法で保障する「ロー対ウェイド」判決(1973年)を骨抜きにする下地を作った。また、まえまえから拠点にしようとしていたフロリダ州南部の連邦地裁には、法定経験の浅いアイリーン・キャノンを判事に指名し、その彼女が、3年後、トランプの機密情報不法所持の起訴が起こると、その裁判の時期を遅延させるために働いた。

しかし、こんなキャノンですら、機密文書の不法保持の裁判の日付の決定について、トランプの暗黙の希望を通すわけにはいかなくなっている。フロリダで起こった事件は当地の判事が裁く――それを予想してアイリーンがあらかじめセットされていた――彼女をコントロールして、裁判を延々と延ばすためだ。これがトランプの予想したシナリオだったが、トランプへの忠誠は自分の将来のためには「自殺行為」であることを徐々に理解した彼女は、トランプの言いなりにはなれなくなってきた。判事としての彼女の「経験不足」も次々に指摘されている。→参考

嘘の嘘はホントか?

6月の起訴状の付帯資料には、トランプが、機密文書を手にしながら、その内容を周囲の者にバラしている(と思われる)録音もある。CNNがそれを公開した。これが事実だとすると、いくら子飼いのアイリーン・キャノンでも、親分を救うことは出来ない。が、ここでトランプが妙案(迷案)を出した。6月29日のABCへのインタヴューで、彼は、あのとき俺は機密資料なんか持っていなかった、持っているフリをしただけだ、と。録音には、紙をめくる音が入っているが、その紙はただの紙束だったというわけだ。

難問:嘘つきが、「いま言ったことは嘘だ」と言ったとき、それは真実なのか? 「いま言っていることは本当だ」というのが嘘だとすると、「いま言ったことは嘘だ」も嘘ではないのか?

このような手口は、フロリダで行われる機密文書漏洩疑惑裁判をあつかうアイリーン・キャノンには通用するかもしれないが、J6「国家転覆」疑惑の裁判をあつかうターニャ・チュトカン判事には通用しない。彼女は、コピペによると、2017年、トランプ政権の反対を押し切って、ISISメンバーの疑いでイラクで軍事拘禁されているアメリカ国民には弁護士を呼ぶ権利があるとの判決を下し、また、政府が不当に妊娠した十代の若者たちが中絶関連サービスにアクセスすることを妨げることを阻止し、2019年には、彼女はトランプ政権の死刑再開計画を差し止め、連邦有罪判決者4人の死刑執行を阻止した、という。裁かれる場所も、トランプ嫌いの多いワシントンDCである。8月28日に予定されている次の聴聞会が楽しみである。

トランプジョーク

いまトランプの批判者のあいだで伝承されているジョークがある。独裁者トランプとその従者の会話である。

従者:閣下、すばらしい(tremendous――トランプの口癖)夢を見ました。
トランプ:どんな夢だ?
従者:はい、何百万もの(million and million――これもトランプ語)群衆が、笑い、喜び、楽器を鳴らし、踊りながら閣下のお車のあとに続いておりました。
トランプ:(嬉しそうに)そうか、それでわしは満足そうだったか?
従者:はあ、それが、お棺の蓋が閉まっておりましたので、お顔を拝見することが出来ませんでした。

こういうのを読むと、トランプ嫌悪がますます広がっているように思うかもしれないが、そうとは言えない。そもそもジョークというものは、ある種の「見識」の産物である。が、トランプの支持者は、「そんなもの」よりも、実質つまりは金銭や権力の利得を優先する。ジョークなんかは時間のムダだと思っている。起訴されるたびに判官贔屓とないまぜにトランプを「反体制の英雄」とみなす支援者からかなりのカンパが集まるというから、起訴もビジネスだ――というのはわたしにはジョークに聞こえるが、ご当人たちには、命がけのビジネスでもある。こういう姿勢からはジュークは出ては来ない。実際、トランプのジュークというのは、聞いたことがない