粉川哲夫の「雑日記」

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2024/03/19

サギの現象学 詐欺からサギへ

「詐欺」という言葉はいずれ死語になる。すでに「サギ」とカタカナで書かかれ、軽くなっている。「左翼」が「サヨク」なり、そして死滅したように「詐欺」もいずれ消えるだろう。

しかし、それは、詐欺行為がなくなるからではなく、詐欺があたりまえになるからだ。左翼も、その常套手段(デモ、スト、難癖等々)をすでに(かつて「反動」と呼ばれた)組織や集団に奪われている。トランプが目下実行しているのは、かつての「左翼」の手口である。

詐欺があたりまえになる過渡期のおわりに、すべてを詐欺/サギの観点から見直すのは意味がある。詐欺・サギの現象学が書かれるべきだ。

小説や映画は、もともとサギだった。犯罪の対象となる古典的な詐欺とちがうのは、合意のうえでの詐欺である点だ。が、にもかかわらず、「金返せ」という批判や訴訟が起こったりするのは、詐欺の素性を消しきれないからである。

トランプ政治のダメなところは、詐欺/サギの技法に依存し、映画やショウビジネスからネタをくすねながら、そのサギのスタイルやネタが旧泰然としている点だろう。そこには、トランプという主役がおり、その「劇」のリアリティを支えるのは、依然として「いまここの現実」なのだ。映画にとって、リアリティは、ヴァーチャルな領域にまでおよんでおり、そんないいかげんな現実性にとどまらないところまで来ている。

トランプ劇場も、「ディープ・ステイト」やエイリアン(トランプ陣営のお騒がせ姫――ババアと言いたいがやめておく――のマージョリー・テイラー・グリーンによると2018年のカリフォルニアの山火事はエイリアンの仕業だとのこと)を持ち出して、リアリティを拡張したりもするが、すべては茶番の域を出ない。だから、その観客は、リアリティの拡張度にうとい層に限定され、そのなかでのみ信奉者を増やすしかない。

その意味でも、トランプ勢力の台頭を「民主主義の危機」と結びつけるのは見当はずれもはなはだしい。民主主義とは、その詐欺/サギのレジティマシー(合法性)が、納得可能な「法」というルールによって論理矛盾がないことをタテマエとするシステムである。詐欺/サギであることには変わりがないが、トランプ劇場のように、セリフや雰囲気にばかり頼って納得させようとする強引さや単純さは避ける。

本当の危機は、政治のレジティマシーつまりはその詐欺/サギの納得のさせ方ではなく、いま、詐欺/サギ自体がその機能と意味を変えようとしていることだろう。

「詐欺」の時代には、まだ、その度合いの判定として「真実」なるものが基準になりえた。が、「真実」が、「オールタナティヴ・ファクツ」になり、デジタル・ハイパー・リプロダクションでどうにもなるようになってしまうと、そうした参照点(リフェランス)がなくなる。

サギに残されている基準は、サギとサギとあいだの数的差異だけだから、サギ罪の重さは、その手口よりも、その金額で測られることになる。要するに「金」だが、これも、いまや、金本位制の金ではなく、情報だから、「金」(ゴールドの意味にもなる)ではなく、「カネ」とカタカナ表記される。

トランプは、「真実」を基準に「詐欺だ」と非難しても、全くこたえない。が、カネがからんだ批判は無視できない。だから彼は、家族ぐるみの金融詐欺の民事裁判の際、出席の義務はなく、いつもなら横着を決め込むのに、ほとんど毎回出席し、ヤジと独断と記者会見をくりかえした。

この金融詐欺に対するニューヨーク州法廷の判決は、454.200百万ドル(現在のレートでは約610臆円以上)で、日割りにして111,984ドル(約1,700万円 ドル)の利子を払わなければならない。→参考

トランプ側は、あの手この手をつくしてカネの工面をしているいるが、見通しがたたず、彼の弁護士グループは、お手上げの状態であることを表明し、トランプ自身は、例によって「不当な弾圧だ」の決まり文句をくりかえしている。しかし、上訴で闘うにしても、保証金は払わなければならない。期限は、来週の3月25日だ。

それまでに払えない場合、普通であれば、資産の差し押さえ等の執行が始まるはずである。トランプタワーのペントハウス、ウォール街のオフィスビル、ゴルフコース、そしてTRUMPマークのついた飛行機も、差し押さえられる可能性がある。どうする、トランプ?→参考

トランプのラント(口車やハッタリの言動)は、電子メディアを通した情報で、物的な参照点を持たないが、土地や建物は物としての「実在性」をひきづっている。いくら不動産が情報化したといっても、物との腐れ縁は切れない。トランプの詐欺は古典的な詐欺であって「サギ」ではない。Con Man (詐欺師/サギ師)としても古すぎる。