【読者コメント】
2002.08.17 澤登浩聡
「トータル・フィアーズ」を本日見てきたのですが、これは
かなり悪質な映画だと思います。
最初はこれは国際政治の危機をスーパーボールに見たてた
映画なのかなと思って見ていたのです。というのは、
映画冒頭の核弾頭による葬送行進シーンは、つまりは過去に埋葬したはずの
冷戦構造を表し、戦闘機が撃墜され、砂に埋もれてしまっていた核の墓地
からイスラム教徒が過去の亡霊を掘り起こし、それを武器商人らしき
アナーキーな企業家とファシスト(その富裕さからおそらく帝国主義的な
経済人として描かれている)とマッド系の核科学者の間でアメリカン
フットボールのボールによく似た核弾頭をパスしあいながら
ついにはボルチモアのスーパーボール会場にタッチダウン(明らかに
アメリカの階級制度から落ちこぼれた屈折した眼差しをもつ青年が最後の
ボールをセットする)して先制点獲得! かたや自由主義的体制チームである
ところの米ソは仲たがいすったもんだして自滅しそうになるが、
一転若い主人公の仲間を信頼する熱い情熱で形勢逆転のタッチダウン!
であるところの拳銃弾とナイフを敵にたたきこむ・・・。
そのゲーム性という面では確かに面白いサスペンス映画なのですが、
よく見てみるに、これでは現在の国家が過去の歴史プロセスには
一切責任はないんだという宣言と同じではないですか。結局、冷戦時代の
亡霊を祓うというお祭り行為(そのためには喧嘩神輿として小さい核爆発が
必要、典型的な人柱)を通して、主人公表すところの表の官僚の王国と
工作員(クラーク)表すところの透明化した軍事力-これはそもそも冷戦
構造の賜物であるはずなのですが-である裏の王国の両方が肯定され、
自由主義的国家権力万歳三唱で終わる映画じゃないですか。まったく
ハリウッド映画典型中の典型であると言えるのではないでしょうか。
とは言うものの、007好きの私としては、ぼやきながらもストイックに
任務を遂行するクラークが21世紀型ジェームス・ボンド(イギリス顔だし)
を見るようで大変気に入っています。
【筆者返信】
澤登浩聡様
「・・・・核弾頭をパスしあいながらついにはボルチモアのスーパーボール会場にタッチダウン」と、「国際政治の危機をスーパーボールに見たてた」というご指摘、卓見ですね。そういえば、湾岸戦争のときにアメリカの反戦グループが作ったビデオ『ガルフ・クライシスTV』で、湾岸戦争のテレビ解説・ミサイルの発射、それをポップコーンを食いながら見ている観客を含めて、コラージュ的な映像処理で、「スーパーボール」実況仕立てにしたのがありました。
戦争自体、政治自体がスポーツとおなじ形式で演出され、操作され、「鑑賞」されているのでしょう。撮影・映像技術は戦争とオリンピックのたびにレベルがあがります。
それと、ナチ/ネオナチとそのシンパに諸悪の根源をなすりつけるやり方はハリウッド映画の常套手段ですが、これは、おっしゃる通り、「現在の国家が過去の歴史プロセスには一切責任はないんだという宣言」の手法の一つですね。
とはいえ、ハリウッド映画は歌舞伎のようなもので、型の競い合いですから、内容がどんなに現にあるものとつながりを持っているように見えても、そちらにたぐりよせるのは無理で、スクリーンのなかで〈感〉を〈動〉かすしかないのではないでしょうか。
また、何かみたら、意見を聞かせて下さい。
粉川哲夫(2002-08-18)