【読者コメント】
2002.9.24 澤登浩聡
粉川さんの仰る「おそろしく右翼的」を楽しみに『サイン』を観にいったのです
が、私の感想としましては、右翼的というより、シャマラン監督の前ニ作と忠実
に同じ路線の映画のような感じがします。シャマラン監督の作品を三作通して観
ますと、やろとしていることが、サム・ライミの『シンプル・プラン (1998)』
以降の一連の作品、『ラブ・オブ・ザ・ゲーム (1999)』『ギフト (2000)』『ス
パイダーマン (2002)』と酷似しているような感じがします。サム・ライミは犯
罪・野球・幽霊・コミックヒーローという大衆的ギミックを利用してアメリカ流
信仰・道徳復興映画を作ったのだと思います。
シャマラン監督も同様に『シックス・センス』では幽霊、『アンブレイカブル』
ではコミックヒーロー、『サイン』ではUFO・宇宙人という民間信仰を取り上
げて映画の中でそれらを、かなりファンダメンタルな信仰の徴として昇華させて
いるのだと思います。前作は正義がいるなら、必ずや対抗する悪がいるはずだと
いう映画ですし、今作は悪魔がいるなら、神がいるはずだという素朴な神学映画
だと思います。その証拠に、典型的なハリウッド映画に見られる家族を守るため
に戦闘する父の像と比較すると、主人公の牧師は全くといっていいほど闘ってい
ません。また、この手のストーリーにつきものの擬似科学・銃・警察官僚は注意
深く除去されおり、牧師の交通自己で亡くなった奥さんと娘は予知能力者(白い
魔女として描かれている)なので、牧師は決定論的未来即ち伝統的なキリスト教
の終末論の中に閉じ込められています。そして宇宙人は脅威というにはあまりに
寂しく登場したかと思うとすぐに去ってしまい、一人取り残された弱々しいゾン
ビは聖なる野球バッドで撲殺されてしまう、あるいは聖水で溶解させられてしま
う。そこが右翼的といえば言えなくもないですが・・・。
また、この映画で面白いのは、誰も徒党を組んでいないということです。
アメリカの農村部を舞台にした映画というものは、鋤とライフルを握り締めた農
民達が徒党を組んで押しかけてくるイメージが私にはどうしてもあるのですが、
この映画では元牧師一家も孤立して生活していますし、隣人も、またテレビを通
して放映される世界各地の都市も孤立し、また悪魔であるところの妙に弱々しい
ゾンビですら孤立してたった一匹で登場するのです。本家大本の『ナイト・オ
ブ・ザ・リビングデッド』ではわらわらとゾンビが群がっていたような感じがし
ますし、またヒッチコックの『鳥』でも群れとしての鳥が何よりも恐怖の対象と
して描かれていたにも関わらずです。多分、これも国家・軍隊としてのゾンビハ
ンターを登場させないための工夫なのだと思います。ですからやはり、この映画
はかなり伝統的なプロテスタントの万人司祭的な個人の内面の信仰というのを重
視した映画なのではないでしょうか。
この映画で一番息をのんだのは、これほどまでに地味な映画を、これほどまで
にセンセーショナルに宣伝できる配給会社の鉄面皮さでしょうか・・・。
【筆者返信】
澤登浩聡さん、
『ジャスティス』に関して、「法廷劇に見せかけた父子の葛藤劇であると思います。」とは卓見です。鋭い指摘と思います
。
いま、ざっと読ませていただいただけなので、いずれゆっくり。
粉川哲夫(2002-10-29)
夫