ディヴァイド ★★★ 3/5
■The Divide/2011/Xavier Gens
●『HELL』に似た、地球の終末的状況のなかで、外部において敵と味方に分断(ディヴィド)されるだけでなく、閉鎖空間内でも閉じ込められた集団のなかに支配・被支配関係が生まれる。それがエスカレートしていく様を見せるわけだが、それが次第にホラーの様相を呈する。だから、抑圧の元凶が倒されれば、ホッとして終わりになる。地球の終末の1エピソードではあるが、この点では『HELL』のほうが余韻を残す。
ラブド・ワンズ ★★ 2/5
■The Loved Ones/2009/Sean Byrne
●かつて『ラブドワン』(The Loved One/1965/Tony Richardson)という似たようなタイトルの痛烈なダークユーモアの傑作があったが、これとは関係ない。
●冒頭、若者ふたりが車を運転していると、亡霊のような半裸の男が歩いていて、それを避けて、大木にぶつかるシーンがある。この半裸の男がこれから展開するホ ラーの鍵を示唆する。
●高校で、キムタクのようなイケメンの男→ブレントにダンスを申し込む女→ローラがいる。男は断り、すでにしたしい仲の女と車のなかで逢引をする。 それを外からじっとながめている先ほどの女。
●崖を登っていていきなり拉致される。気がつくと、人里離れた家にいる。あの娘と父親と傷だらけの老婆。猟奇的な食事。やがて、さまざまなサドプレ イが始まる。父親は、娘のために何でもする。拉致されたキムタク男は、頭にドリルで穴を開けられたりもする
●床の扉を開くと、地下には動物のようになった男たちがうごめいている。人間が飼われているらしい。そこをどう脱出するか。スリラーだが、猟奇的な展開だけで、面白みがない。
スノーホワイト ★★★★ 4/5
■Snow White and the Huntsman/2012/Rupert Sanders
●文句ないアクション・サスペンスに仕上がっている。あえていえば、童話にはつねにあるメタストーリー的要素、つまりその物語をさまざなに想像変更してみる応用可能性がこの映画にはないことだ。つまり、完結しているのである。だから、見終わって、ああ「面白かった」と思って映画館を出て、忘れてしまうことができるわけだ。ある種の<欝ばらし>(いまみんな鬱になっているから)にはいいかもしれない。
●ハイスピード・シャッタリング・CGIエフェクトというか、物体が粉々にくだけるのがスローモーションで映されるといったCGIの基本的な技法が、手を加えて使われている印象を受けた。白雪姫ことスノーホワイト(クリステン・スチュワート)の継母ラヴェンナ(シャリーズ・セロン)が、「鏡よ鏡よ」と向かう鏡が溶けて、他の姿に変容していくCGIエフェクトも、目新しいものではないが、こういう古典的なテクニック効果的に使う。
●ラヴェンナの部屋の高い天井にカラスが蒔うという布石があり、そののち、死んだと思った弟ウィリアムが姿を現し、スノーホワイトが抱擁すると、それがラヴェンナに変容し、彼女を殺そうとする。本物のウィリアムとエリック(クリス・ヘムズワーク)が危機一髪でかけつけ、ラヴェンナに斬りつけると、その黒い衣装ともども粉々にくだけ、その破片がカラスに変わって一斉の空に舞い上がる――なかなか見応えのあるシーンである。
ベルフラワー ★★★★ 4/5
■Bellflower/2011/Evan Glodell
●エヴァン・グローデルの長編第1作で、低予算のいかにもアマチュアっぽい作りだが、随所に「何でも作っちゃおう」的DIY精神とアイデアに満ちている不思議な作品。
●爆破し、燃やせ、やっちまえ。が、「なんちゃって」の遊びも残している。次作が楽しみ。
アタック・ザ・ブロック ★★ 2/5
●ロンドンの貧民街の感じがひしひしと伝わってくる話になりそうな導入部が、やがてエーリアンとの闘いになってしまう。まあ、よそ者はエーリアンではあるが、闘ってやっつければ安心というものではないから、都市の物語としてはリアリティがない。
アメイジング・スパイダーマン ★★★★ 4/5
■The Amazing Spider-Man/2012/Marc Web(マーク・ウェブ)
◆3D技術をかなり控え目に使っている。
◆サム・ライミ版のときに感じた、空中浮遊感は薄い→傍観者の視点に置かれる。3Dが必ずしも現場感覚を高めるとはかぎらないという例。
◆キーワード→両親のいない子、テクノオタク、ニューヨーク
きっと ここが帰る場所 ★★ 2/5
■This Must Be the Place/2011/Paolo Sorrentino
●アイデアと構成はいいと思う。しかし、ショーン・ペンの力づくやフランシス・マクドーマンドの下品さが大嫌いなわたしには、この作品を正しく評価する資格がない。評点は、わたしの単なる好き嫌いの評価。
●鬱をあつかうのなら、この映画の後半の展開のような「行動」はないほうがいい。「英雄的」行動をしてしまうところが、いかにもショー・ペン的マチズモである。彼は、『ミルク』を撮っているが、彼からゲイ性を感じることはできない。
少年は残酷な弓を射る ★★★★ 4/5
■We Need to Talk About Kevin/2011/Lynne Ramsay
●フラッシュバックで時間がひんぱんに交代するが、この映画の「現在」は、殺人をして刑務所にいる息子ケヴィン(エズラ・ミラー)の母親エヴァ(ティルダ・スウィントン)である。だから、イントロのあとちらりと刑務所に面会に行くシーンが映り、やっと最後に、すでに2年を刑務所ですごしている息子を訪ね、実に虚しい表情で帰途につく母親の姿がある。
●1度見たときは、幼いときから手のおえないやっかい者だった息子がアーチェリーで父親や隣人を殺すという大それた事件を起こすという直線的な見方をしてしまったが、2度目に見たとき、この映画のフラッシュバックの形で登場するエピソードは、母親の問いのプロセスであることがわかった。最後の面会のシーンで、「なぜこんなことをしたの?」と息子に問いかける。息子は、以前の(つまり2年まえの)ふてぶてしさはなく、憔悴した顔をしている。そして、母親の問いに、「わからない」と答える。つまり、母親にも息子にも、なぜそのような事件を犯したのかがわからない。
●エヴァ(ティルダ・スウィントン)の意識のなかにあらわれるエピソードからすると、息子のケヴィンは、幼いときからやっかいだった。言うことをきかない子だった。それは、(映画では言及されないが)アスペルガー症候群の子供にはよくあるタイプである。エヴァも父親(ジョン・C・ライリー)も、忍耐強く育てるが、ケヴィンはどんどんニヒルな若者になる。しかし、これは、あくまでも、エヴァが・・・なのかな?と自問する意識の外化された映像をわたしが見て思うことであり、本当にすであるかどうかはわからない。結局のところ、人間がやることはわからないのである。親にとって子供は、また、子供にとって親は、異細胞のエイリアンである。家庭という形式が、あたかもその構成員たちにとって、たがいにわかりあえるかのごとき幻想を生む場になっているのである。
●家庭というものの皮肉は、母と子は、子が犯した殺人事件を通じて、やっと等距離の関係を持つことができるという点にある。「なぜこんなことを?」という疑問は消えないが、収監後2年をした最後のシーンで、決してわかりあえる関係に達したとはいえないにしても、まえよりはましの関係に達したのだ。
●息子役のエズラ・ミラーが抜群にいい。ブライアン・デ・パルマの『アンタッチャブル』(The Untachables/1987/Brian De Palma)で他の出演者を完全に食ってしまった殺し屋フランク・ニッティを演じたビリー・ドラゴ(Billy Dorago)を少年にしたような感じである。
●キネマ旬報、2012年6月下旬号、p134、ハック・ザ・スクリーン 02、"官能とは別に"参照。
【参考】
●Rachel Shteir: "The Ass and the Meaning of Life" → http://www.tnr.com/article/books-and-arts/100046/crazy-horse-documentary?page=0,0
●The Back Row Manifesto(BRM)へのフレデリック・ワイズマンン・インタヴュー:
撮影はリサーチだ:In a sense, the shooting of the film is the research. I'm always surprised because I like to think I’m learning something.
One of the interesting things for me, coming out of the experience of being at The Crazy Horse, is what constitutes eroticism and sensuality?
My films are about the place; it’s usually one building or a very limited geographical area.
エモーショナルにはならない: BRM: Do you allow yourself emotional involvement in all of this?
Wiseman: I try not to. You’re there to make a film and the equipment is a kind of defense, it’s not as if you’re there just watching; you’re there to make a movie.
一回性のドキュメントとパフォーマンスのドキュメントは違う:you can cut it as if it was staged for a movie that way, even though it wasn’t. Because the event is a repetitive one, you can create choices for yourself.
[ http://backrowmanifesto.com/2012/01/03/the-2011-toronto-film-festival-interview-frederick-wiseman-crazy-horse/ ]
●Christopher Campbell: "Crazy Horse" is... A Documentary by Frederick Wiseman (So Why Am I So Ambivalent About It?)→"..seem appropriate for an early ‘90s Playboy video
".
[http://blogs.indiewire.com/spout/crazy-horse-review#]
●Jamie S. Rich: "Crazy Horse" review→"It's an "inside baseball" scenario, and how much you are interested in seeing how it all plays out will depend on your personal passion for the game."
[ http://www.dvdtalk.com/reviews/54897/crazy-horse/ ]
●For better or worse, viewers of Frederick Wiseman's undisciplined documentary about the Parisian nude review venue the “Crazy Horse” will never have to visit the landmark club.There’s no question that there is a tremendous amount of artistic effort applied to the performances. But the much ballyhooed climax set piece, involving the dancers singing out of tune, drops the, UM, bottom out of an already tenuous enterprise.
[ http://www.colesmithey.com/capsules/2012/01/crazy-horse.html ]
●Maurizio Von Trapp →" A great little ad video for the cabaret, but as a film I wish Wiseman had been less lazy and actually gotten down and dirty with the characters at hand. As it is, this film is a missed opportunity."
[ http://www.rhummag.com/index.php?option=com_content&view=article&id=2129:film-review-55th-bfi-london-film-festival-crazy-horse-director-frederick-wiseman-&catid=40:mr&Itemid=111 ]
■粉川哲夫のシネマノート
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