◆裁判の台詞の多くは、裁判記録を正確に踏襲しているという。
◆映画のシーンを撮影するにあたって、撮影監督のNewton Thomas Sigelは、当時の写真(セピア)から光の対比を調べ、それを撮影に応用したという。
◆メアリー・サラットは、アメリカで最初の女性死刑囚。
◆裁判は形式で、死刑の社会的効果が優先された。
◆市民としての権利に執着するのは、レッドフォードの執念。
◆アメリカでは、ケネディ兄弟の暗殺にしても、911にしても、明明白白に事件が解明されることはない。それは、アメリカが謎を隠す国だからではなくて、明らかになるレベルが高いためにその分謎が残るのだとわたしに説明したアメリカ人がいた。つまり、普通の国なら隠し、適当なストーリが作られて(たとえば織田信長は本能寺で殺された云々)完結するのに対して、アメリカでは事実が公開されるために、謎を生むのだという。事実は、見方によってはいくらでも解釈が可能だ。だからこそ、映画や小説は、そうした解釈を提供する使命がある。
◆この映画だけでも、リンカーンの暗殺が単に反対派によるものではなかったらしいことが推察できる。メアリー・サラットによると、最初の計画は大統領誘拐だったという。しかし、それが暗殺になった。最初から、暗殺→犯人の逮捕→南軍支持者の処刑ということが計画されていたのかもしれない。あるいは、誘拐計画の情報をつかんだ反リンカーン派が、リンカーンを亡き者にするためにそれを暗殺計画に利用したのかもしれない。
◆リンカーンの暗殺に関しては、詳細なデータが公開されている。映画はそれを参照し、「事実」を忠実にたどろうとしている。しかし、劇場にいるリンカーンの暗殺直前のシーンのなかにひとつわかりにくいのがある。一人の男がベッドの横たわる男(頭に包帯をし、喉にサポータを着けている)を襲って、ナイフでめった刺しにするシーンだ。リンカーンの暗殺に平行してリンカーン派の要人が暗殺されるのを映しているということはわかっても、この人物がなぜ怪我をしているのかがわからなかった。この人物は、調べてみると、国務長官のWilliam H. Sewardで、包帯は、少しまえ馬車の事故で怪我をしたのだった。映画ではめった刺しにされたが、からくも生き延びた。
◆Inter arma, silent leges/In times of war, the law falls silent 戦時には法は沈黙する――検察官(ダニー・ヒューストン)がエイキンに言う。エイキンは、それに対して、「そうあるべきではないです」と答える。
◆ロバート・レッドフォードは、一貫して、市民派の論理に執着する。戦時下であれ、そうでないときであれ、市民がその権利を守られるべきだという論理。憲法はそれを保証するためのもの。しかし、いまアメリカでは、ホームランド・セキュリティのもとで、(アメリカを戦時下にしたのは、911を復讐の「正義」とした国家自身だったのに)市民に当然保証さべるべき権利が侵されている。
◆メアリー・サラット役のロビン・ライトは、ロバート・レッドフォードが絶対に必要と思った主役で、レッドフォードは、スケジュール調整のため彼女が遅れて撮影に参加するのを待った。
◆エヴァン・レイチェル・ウッドもレッドフォードが欲した俳優。ロビン・ライトの娘を演じる場合に、体質・体形が似ている。
◆検察官を演じるダニー・ヒューストンは、いい味を出している。決して、ジェイムズ・マカヴォイが演じる弁護士に対する「悪役」にはなっていない。
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■粉川哲夫のシネマノート
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