「シネマノート」 「雑日記」
私家版ハック・ザ・スクリーン
プリントアウトして読むサイト (PDF)
- No.50 「書店の未来」〔ジョン・タトゥーロ監督・主演『ジゴロ・イン・ニューヨーク』 (2013)〕
- No.49 「仮想を歓迎する映画」〔パベウ・ヴェ リコフスキー監督『イーダ』 (2013)〕
- No.48 「《エポケー》の必要」〔ペトリ・ルーッカイネン監督・主演『365日のシンプルライフ』 (2013)〕
【由来】
ウェブをハックするというのは、ウェブをクラックしたり、ネットシステムに侵入すことではない。もともと "hack" とは、コンピュータ技術に精通し、プログラムを自在にあやつることを意味した。
わたしは、その意味にあやかり、Hack the Classroom 「
教室をパフォーマンス・アートの現場にする」というシリーズイヴェントを主宰し、それが昂じて「
教室を教室でなくするチャレンジ」という長期企画を敢行した。
これはイヴェント企画であったが、2012年5月から雑誌『キネマ旬報』で「ハック・ザ・スクリーン」という連載を始めたのも、劇場スクリーンの映画を「ハック」する――つまり普通の鑑賞とは異なる見方をする――ためであった。
あるきっかけからこの連載を50回で終りにしてみて、紙メディアとウェブとの関係をあらためて考えることができた。おりしも、『メディアの臨界 紙と電子のはざまで』(せりか書房)という本を仕上げたばかりであるということも手伝って、書くという行為において紙メディアとウェブメディアとの差異がどのよう作用するのかについて具体的な思いが深まった。
そこで思いついたのは、ウェブを紙メディアのほうへ引っぱってみることである。いま、電子本のように、本をウェブや電子メディアのほうへ引きずり込む動きはさかんである。が、それはどのみちもっと進むであろうから、その流れに乗るのは別に新しいことではない。それよりも、
紙にプリントアウトして読むウェブサイトを作ることのほうが新しいし、面白いのではないかと思ったのである。
そこで、早速、「
ハック・ザ・コンヴィニエンス」というページを作ることにした。この試みによってウェブのいまの状態、つまりは便宜性(コンヴィニエンス)に流れすぎていることを異化することができるようになればという期待からのタイトルだった。
だが、しかし、ページを立ち上げ、その「雑誌」の
テスト版を掲載して様子を見たが、期待した反応はなかった。むろん、様子を見たのはたった1日である。ネットの1日は紙メディアの1週間だと思うからだ。
それと、書くこちらのほうも、ページにかぎりのある連載から解放されたいま、あえて締切やページの字数限定を自分に課すのも、わたしにはマゾキスティックすぎるように思えてきた。むしろ、いままた高まってきたわたしの関心は、ネットメディアへの何度目かの「復帰」である。
最終的には、こういう結論に達した。紙にプリントアウトして読んでもらうページは作る。ただし、それは、『キネマ旬報』に連載していた「ハック・ザ・スクリーン」の私家版である。それを目にした読者は、雑誌上のものとの違いを比較することもできるだろう。また、連載のためにあえて「シネマノート」では取りあげなかった作品についてのわたしの見解を知ることもできるだろう。そして、とりわけ、ネットサイトからデータをわざわざダウンロードし、プリントアウトするという行為の意味を考えてもらうことができるだろう。
(2014/07/03)
メール: tetsuo@cinemanote.jp シネマノート